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 しくなりたいあなたのために。「美しくなりたいのはあなただけではなかった」
今、女性雑誌を開けば美しくなるための情報が満載です。皮膚若返らせる方法から、痩せる方法まで、ありとあらゆる美容関連の情報があふれています。インターネットなどの情報を見ると何を信用してよいのか分からなくなってしまいます。更に美容外科やエステティックサロンは言うに及ばず、アロマセラピーやスパセラピー、リフレクソロジーなどさまざまな種類の美容術が誕生しました。ここ数年その傾向は顕著なようです。そしてこのような傾向は日本に限った話ではありません。美容先進国といわれるアメリカでは美容室で髪の毛を整えるのと同じような感覚で美容クリニックに通っていますし、お隣の韓国では親が子供に美容手術をプレゼントした、なんていう話も聞きます。これはいったいどうしてなのでしょう?
人がより美しくなりたい、そう思う気持ちはかなり根源的なものであり、至極当然のことです。そしてその欲望はここ数年の間に芽生えたものではなく、実は美容の歴史を調べていくと、非常に古いということがわかります。
古代エジプトでは化粧をするということは神に仕えるものだけが許された特権でした。そしてエジプトの王は太陽の神の生まれ変わりと信じられていました。ですから現在エジプトの壁画などを見ると女性が目の周りを派手に塗りこめていますが、あれは太陽を表したものだといわれています。これがアイシャドーの始まりでした。また当時既に牛乳風呂に入ると皮膚すべすべするということが知られていました。美女として有名なクレオパトラも牛乳風呂を愛したとの記録が残っています。牛乳の中には乳酸という弱酸が含まれており、これが皮膚に作用して皮膚表面を滑らかにしたのだと考えられています。現在ではこれがケミカルピーリングの始まりであると考えられています。
古代ギリシアでは健康精神健康肉体に宿るという考え方から、体育教育に力が入れられ、ギリシア彫刻に見られるような健康的な肉体美がもてはやされました。しかしギリシア文明が衰退し、地中海文明の中心がローマに移ると、ローマ人は身を着飾ることにエネルギーを注ぎました。
古代ローマでは公衆浴場の建設が盛んでした。カラカラ帝の時代には有名なカラカラ浴場が建設されました。こうした公衆浴場は本来伝染病予防という公衆衛生的な観点から建設されたのですが、ローマ市民は入浴の楽しみ方を発見し、カラカラ浴場のような巨大なリクリエーションセンターを生み出したのです。そこでは単にお湯につかるだけではなく、体に香油を塗ったり、カルダリウムという部屋で蒸気を浴びたり(今で言うサウナですね)、それからなんと垢すり棒で垢すりを行っていたのです!
その後のヨーロッパではキリスト教の教えによる禁欲的な思想が支配的となり、「美しくなりたい」ということはタブーとされるようになりました。しかし十字軍の遠征によってイスラム文化が導入され、13世紀から14世紀のイタリアでは外科手術の本の中にしみしわをとる方法が記載されるようになったといいます。
わが国では太陽の神様である天照大神(あまてらすおおみかみ)が天岩戸(あまのいわと)に隠れてしまったとき、女性神である天宇受売神(あめのうずめのかみ)が一心不乱に踊って(セクシーな踊りだったようです)、その姿を他の男の神々が見て大騒ぎになり、天照大神が何事が起こったのかと岩戸を開けたという神話があります。そのときのことを日本書紀では「あなおもしろし」と書いてあります。この「おもしろい(面白い)」は現在「おかしい、たのしい、愉快だ」等の意味ですが当時の日本語ではまさに「顔が白い」という意味でした。そして顔が白いということは即ち美しいということを意味しました。天照大神が天岩戸を開けたとき、暗闇に明るい光が刺してまばゆいばかりであったのでしょう。それを「おもしろし」と表現したのです。現在でも「色の白いは七難隠す」といって日本人にとって顔の色が白いことはの象徴であり、古くから美しくなるために顔を白くしました。
色を白くするために用いられたのは、まずおしろいですが、昔のおしろいは鉛を含んでいたために、長期間の使用で逆に皮膚が黒くなるなどの副作用を起こしました。また胸までおしろいを塗ることによって授乳によって乳児に鉛中毒が起こるなどの問題が起き、明治政府は鉛の含まれていないおしろいの使用をすすめたなどという記録も残されています。一方日本酒を仕込む杜氏(とうじ)と呼ばれる人の手がいつも白いということにも気が付いていました。そしてわが国で酒麹の中に含まれる麹酸に美白作用があることが発見され、つい最近まで広く化粧品に使用されました。(しかしながら2003年、麹酸に発ガン作用があるということが判明し、現在では麹酸を含有した美白剤は使用されていません。)
美しくなりたいあなたのために「美しくなりたいのはあなただけではなかった」
20世紀になるとロウソクの火で脱毛を行うことなどが行われたようですが、1919年、フランスのレーモン・パソによって近代美容外科が始められました。近代の美容外科は形成外科の技術を基本としており、当初は戦争で傷ついた顔を治したことから軍人病院で発達しました。第二次世界大戦末期、ナチスドイツの高官は終戦後に戦犯として処罰されることを恐れて、進んで形成外科手術を受け、鼻や顎を削ったりして顔を変えた後、南米などに逃れたといいます。
わが国では第二次世界大戦後、乳房や顔面などにシリコンなどを注射することが盛んに行われました。しかしこれは後に悲惨な後遺症を残す結果となりました。
今日では当たり前のようにして行われる脂肪吸引も、始めフランスで施行された時にはその効果と安全性に疑問が呈され、正当な治療法と見なされていませんでした。しかし脂肪を吸引するカニューレの改良や、生理食塩水を多量に使用するなどの工夫を経て、今日ではその効果と安全性が確立されました。
その後美容に関する医療は目覚しく進歩し、今日では様々な治療が安全に行えるようになりましたが、しかし今日でも不適切な治療を受けたことによって後遺症に悩んでいる方も少なくありません。
美しくなりたいと思う気持ちは人間の根源的な欲望の一つだと思います。そして美しくなるために努力することはなんらやましいことではありません。
しかしながら「美容」の歴史は常に後遺症や副作用との闘いであったということも残念ながら事実です。そしてそのことが美容に対していまだ完全に信頼が置けない理由の一つであろうかと思います。
世の中には次から次に新しい美容手技が誕生しています。その中には科学的根拠がないものや効果の疑わしいもの、危険なものが含まれています。ですから「新しい技術が常に最高である」ということは必ずしもいえないのです。しかしながら脂肪吸引や近年ではボツリヌス菌毒素製剤のように当初はその安全性が疑問視されたものでも、その効果と安全性が認められるようになったものもあります。従って「新しい技術が常に危険である」ということでもないのです。
私たちは自らの知識と経験に照らして、そして美しくなりたいという貴女のその熱意に対して誠意と良心を込めて、本当に効果のあるもの、安全なもの、価値があるものだけを選りすぐってこの本を書きました。
様々に氾濫する美容関連の情報に惑わされず、科学的に正確なことのみを記載するように努めました。
本書が美しさを求める貴女の福音となりますことを。
(形成外科専門医:青木 律)
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